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三陸の夏を彩るオレンジ色のホヤ

桜が散り、新緑が眼にまぶしい季節になると三陸はいよいよホヤの季節。夏に向かってどんどん身が厚く大きくなり、旨みもぎゅぎゅっと増して7月、8月には最高潮を迎えます。

ホヤとは一体ナニモノ?

魚でなく、貝でなく、海藻の類でもなく。ホヤとは一体なんなのか? 一度は誰もが浮かんだ疑問ではないでしょうか。結論から言えばホヤは「動物」。私たち人間が属する哺乳類や鳥類、魚類、爬虫類といった脊椎動物の原点である「原索動物」なのです。ホヤを使って最先端の遺伝子学に取り組む筑波大学臨海実験センターいわく、「ホヤはヒトに最も近い無脊椎動物。私たちヒトと同じ先祖を持つ同じルーツの生物」とのこと。なんだか少しだけ、親近感がわいてきませんか?

三陸はホヤの聖地

市場に出回るホヤのほとんどは養殖された真ボヤです。震災を機に一時は生産量が落ち込みましたが、今ではまた宮城県がトップに返り咲き、全体の6割が宮城県、そして北海道、青森県、岩手県の計4県で約2万トンの生産のほぼすべてを賄っています。よく「ホヤは苦手」と言っていた人が東北でホヤを食べてそのおいしさに開眼したという話を聞きますが、それもそのはず、ホヤはその鮮度と適切な処理の仕方が命。特産物は特産の地で食べるのが一番おいしい、その理由をホヤの味わいが物語っているのです。ぱんぱんに張った球体のホヤ。その突起の中には「+」と「-」のように見えるパーツがあり、海水を取りこむ吸水孔である「+」の方を切り落として中身を出し、身を流水で洗います。「鮮度がいいホヤの内臓や老廃物はこのようにはっきりとしたかたちをしていて掃除もしやすく、逆に鮮度の落ちたホヤの内臓や老廃物はどろどろに溶けているものも多いんです」と髙橋さん。

鮮やかなオレンジ色に「五味」を秘めて。

新鮮なホヤの身は、握ると反り返るほどに弾力たっぷり。柔らかくもしゃっきりとした食感が楽しめるよう飾り包丁を入れて握ります。天には、アサツキと紅葉おろし。ポン酢醤油で味わうのがおすすめです。ホヤはこの世の中で唯一、「五味」すべてを有しているとされる食材。海の潮(塩味)、甘み、酸味、苦み、そして旨み。噛みしめるほどに5つの味わいが寄せては引き、まるで波のよう。

旬のホヤを究極のシンプルで酒肴に

『うまい鮨勘』のホヤは、宮城三陸育ちの3年もの。「梅雨に入ると身の色も味も濃くなる」と髙橋さんは言います。五味を有するホヤだから、その楽しみかたもごくごくシンプルなスタイルがいいでしょう。

まるでジュレをまとったようにぷるぷるのお刺身を、ワサビと醤油できりっと味わいます。ワサビの香気と醤油の旨みでホヤの甘さが強調されます。

もう一つの定番は、ポン酢醤油との組み合わせ。ホヤとキュウリ、大葉は「であいもの」として特に相性のいい薬味です。柑橘の爽やかな酸味がホヤの香りをより鮮烈なものにし、海の塩気、ほのかな苦みを心地よく楽しませてくれます。

「家庭で楽しむなら、こんな味わいかたもおすすめだよ」と髙橋さんが教えてくれたのが「ホヤキムチ」。剥いたホヤを1時間ほど風に当てて軽く干し、キュウリ、人参を千切りにしたものとキムチダレで和えました。ホヤが持たない「辛み」という味をプラス、野菜の香気とともに味わうこの一品、お酒との味わいはもちろんごはんとの相性も最高です。

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profile-image うまい鮨勘 総本店
髙橋勇吾 店長

石巻市出身。16歳で板前を志し、以来、職人一筋40年。何事も“いい塩梅”を心掛け、その魚本来が持つおいしさを十分に引き出すことを常としている。朗らかな人柄、確かな腕はカウンター席にたくさんの常連を生み、「勇吾店長が握る寿司が食べたい!」という声も多い。